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VA-ECMO管理中の低血圧から学ぶ、循環評価と輸液の臨床推論

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診療看護師のメモ帳
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はじめに

集中治療の現場では、血圧が低下したときに輸液を開始する場面がある。

もちろん、循環血液量の不足が原因であれば、輸液によって前負荷を増やし、心拍出量や血圧を改善できる可能性がある。

今回は、VA-ECMO管理中の患者の血圧低下をきっかけに、輸液の目的、循環動態の評価、そして看護師・NPとして考えたい臨床推論について整理する。

※本記事は臨床学習を目的とした症例考察であり、実際の患者情報は特定されないよう一般化している。


1.症例から生まれた疑問

考察の対象となったのは、心停止蘇生後にVA-ECMO(静脈脱血・動脈送血型体外式膜型人工肺)、IABP(大動脈内バルーンパンピング)、CHDF(持続的血液透析濾過)による管理を受けていた患者である。

背景には拡張型心筋症があり、循環動態は不安定で、心室頻拍への対応も必要な状況だった。

経過のなかで、以下のような情報があった。

  • 収縮期血圧は70〜80 mmHg台、MAP(平均動脈圧)は約50 mmHg。
  • VA-ECMOのフローは安定していた。
  • 低血圧への対応として、生理食塩水が200 mL/hで投与されていた。
  • 前日までの水分バランスは約+5 L。
  • CHDFを継続しており、翌日にVA-ECMO離脱が検討されていた。

そこで疑問に思った。

この患者に必要なのは、本当に輸液による循環血液量の補充なのだろうか。

血圧を維持する必要があることは間違いない。しかし、血圧を上げる方法は輸液だけではない。

まずは、低血圧の原因を整理する必要があると考えた。

2.血圧が低いことと、循環血液量が不足していることは違う

血圧は、単純化すると心拍出量と血管抵抗によって決まる。

平均動脈圧(MAP)≒ 心拍出量(CO)× 全身血管抵抗(SVR)

厳密には中心静脈圧なども関係するが、この関係を理解すると、低血圧の見方が変わる。

血圧が低下した場合、少なくとも次の可能性を考える必要がある。

① 前負荷不足

前負荷(preload)とは、心臓が収縮する前にどの程度血液で満たされているかを表す概念である。

出血、脱水、静脈還流の低下、過剰な除水などによって前負荷が低下すれば、心拍出量が減少し、血圧が低下することがある。

この場合、輸液によって循環血液量を補うことが有効な可能性がある。

② 心機能低下

心筋の収縮力が低下していれば、心臓に血液が戻ってきても十分に拍出できないことがある。

今回のように拡張型心筋症があり、VA-ECMOによる循環補助を受けている患者では、自己心臓の機能と補助循環の影響を分けて考える必要がある。

心機能が著しく低下している場合、輸液を追加しても血圧が十分に上がらず、かえって心臓の負担や肺うっ血を増やす可能性がある。

③ 血管拡張

血管が拡張し、全身血管抵抗が低下している場合も血圧は低下する。

この場合、輸液だけでは十分な血圧上昇が得られないことがあり、血管作動薬の必要性などを含めた評価が重要になる。

④ 不整脈や薬剤の影響

頻脈性不整脈によって有効な心拍出量が低下することもある。

また、鎮静薬や循環に影響する薬剤も、状況によって血圧低下に関与する。

このように、同じ「血圧低下」という現象でも、その原因は一つとは限らない。

だからこそ、血圧という結果だけでなく、その結果を生み出している循環動態を考えることが重要なのだと思う。

3.ECMOのフローが安定していることを、どう解釈するか

今回、低血圧が生じた際にVA-ECMOのフローは安定していた。

この情報から、少なくとも典型的な脱血不良によるフロー低下が、血圧低下と同時に起きていた状況ではなかったと考えられる。

ただし、ここで注意したい。

ECMOのフローが安定していることは、患者自身の循環が安定していることを意味しない。

VA-ECMOの流量が保たれていても、自己心拍出量、血管抵抗、左室の状態、冠循環、臓器灌流などに問題が存在する可能性はある。

また、ECMOの流量が安定しているからといって、循環血液量の不足が完全に否定されるわけでもない。

重要なのは、ECMOの流量だけで判断せず、動脈圧波形、脈圧、心エコー、末梢循環、乳酸値、尿量などを組み合わせて評価することである。

4.輸液を考えるときに必要な「輸液反応性」という視点

今回、特に重要だと感じたのが輸液反応性(fluid responsiveness)という考え方である。

輸液反応性とは、輸液などによって前負荷を増やしたときに、一回拍出量(SV)や心拍出量(CO)が増加するかどうかを示す概念である。

ここで注意したいのは、輸液反応性があることと、輸液が必要であることは同じではないという点だ。

たとえ輸液によって心拍出量が増える可能性があっても、すでに十分な循環血液量があり、うっ血が進んでいるのであれば、追加輸液の利益が害を上回るとは限らない。

反対に、循環血液量が不足し、臓器灌流が低下しているのであれば、輸液が必要になる可能性がある。

つまり、輸液を検討する際には、次の二つを分けて考える必要がある。

  1. 輸液によって心拍出量が増える可能性があるか。
  2. 実際に輸液をすることで、患者に利益があるか。

この二つを分けて考えることで、「血圧が低いから輸液をする」という判断から、一歩進んだ評価ができるのではないだろうか。

なお、VA-ECMO管理中は通常の輸液反応性評価をそのまま適用できない場合もある。受動的下肢挙上などの手法も、IABP、人工呼吸器設定、循環補助の条件を含めて慎重に解釈する必要がある。

5.生理食塩水200 mL/hという投与速度を考える

今回、低血圧への対応として生理食塩水が200 mL/hで投与されていた。

この速度を24時間継続すると、投与量は4.8 Lになる。

もちろん、実際には投与時間や他の輸液・輸血、薬剤、尿量、CHDFの除水量などによって、最終的な水分バランスは変わる。

しかし、200 mL/hという数字を見たとき、単に「輸液をしている」と捉えるのではなく、どのくらいの水分を、何の目的で、どれくらいの期間投与しているのかを考える必要がある。

今回のように、前日までの水分バランスが約+5 Lで、心機能が低下しており、VA-ECMO離脱が検討されている患者では、輸液の継続によって循環血液量が増えすぎないかという視点も重要になる。

ただし、水分バランスがプラスであることだけを理由に、輸液が不要と断定することもできない。

水分バランスの数値だけでは、血管内に有効な循環血液量が十分にあるかどうかは分からないからだ。

必要なのは、現在の循環動態、臓器灌流、うっ血の有無、CHDFによる除水状況などを総合して、輸液の利益とリスクを評価することである。

6.生理食塩水でなければならないのか

次に考えたのが、輸液製剤そのものの選択である。

生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム液)のナトリウム濃度とクロール濃度は、いずれも154 mEq/Lである。

一方、乳酸リンゲル液や酢酸リンゲル液などの平衡晶質液(balanced crystalloids)は、電解質組成が血漿に近づくよう調整され、緩衝作用を持つ陰イオンを含んでいる。

大量の生理食塩水を投与すると、高クロール血症や高クロール性代謝性アシドーシスにつながることがある。そのため、輸液製剤を選択する際には、投与量、電解質、酸塩基平衡、腎機能などを考慮する必要がある。

ただし、平衡晶質液があらゆる患者で必ず優れていると結論づけられるわけではない。

今回の血液ガスでは、クロールはおおむね105〜107 mmol/L程度であり、読み取れる範囲では明らかな高クロール血症を示していなかった。

したがって、今回のデータだけから、生理食塩水を別の製剤に変更すべきだと断定することはできない。

重要なのは、「生理食塩水が悪いかどうか」ではなく、なぜこの患者に、今、この製剤を、この速度で投与する必要があるのかという問いである。

今回のように、CHDFを実施している場合、クロールやカリウムなどの電解質は透析液・補液の組成、流量、除去量、追加投与量などの影響を受ける。CHDFを実施しているからといって、輸液による電解質負荷が自動的に相殺されるわけではない。

7.VA-ECMO離脱を見据えた循環管理

VA-ECMO離脱を考える段階では、補助循環を維持している間の血圧だけでなく、補助を減らしたときに自己心臓がどの程度循環を担えるかが重要になる。

自己心機能、左室の拡張・駆出、大動脈弁の開放、右心機能、血管抵抗、臓器灌流などを総合的に評価する必要がある。

ECMOの流量を下げた際に血圧が上昇することがあったとしても、それだけで原因を確定することはできない。

VA-ECMOは左室後負荷に影響するため、流量変更によって左室の駆出や動脈圧が変化する可能性はある。しかし、血圧変化の解釈には、心エコー所見、動脈圧波形、脈圧、補助循環の条件などが必要になる。

こうした状況では、輸液を追加して血圧を上げるという対応だけでなく、低血圧の原因を評価し、離脱に向けて循環をどのように整えるべきかという視点が重要だと考える。

8.ECMOのフローを下げたら、血圧が上がった。何が起きていたのか?

今回、特に興味深かったのが、VA-ECMOのフローを下げた際に、血圧が上昇するという反応がみられたことだった。

通常、ECMOは循環を補助するための装置である。であれば、フローを下げると全身への送血量が減り、血圧も低下するのではないか。

しかし、実際には血圧が上昇した。

この現象から考えたのが、VA-ECMOによる左室後負荷(left ventricular afterload)の影響である。

VA-ECMOは循環を補助する一方で、左室の負担を増やすこともある

VA-ECMOでは、静脈側から脱血した血液を人工肺に通し、動脈側へ送血する。

この動脈送血によって大動脈圧が高くなると、左室が大動脈弁を開いて血液を駆出するために必要な圧力も上昇する。つまり、VA-ECMOは全身循環を支える一方で、左室後負荷を増大させることがある。

特に、拡張型心筋症などで左室収縮力が低下している患者では、この影響が問題になる可能性がある。

左室が十分に血液を駆出できなければ、左室内の血液が増え、左室拡張や左房圧の上昇、肺うっ血につながることがある。大動脈弁の開放が乏しくなり、左室内の血液うっ滞が問題となる場合もある。

フローを下げることで、心臓の駆出が改善した可能性

今回のように、ECMOフローを下げた際に血圧が上昇した場合、ひとつの仮説として考えられるのは、ECMOによる左室後負荷が軽減し、自己心臓からの駆出が改善した可能性である。

つまり、ECMOによる循環補助が必要な一方で、その補助の強さが自己心臓の駆出に対して負担となっていた可能性がある。

このような状況では、ECMOのフローを下げることで、自己心臓の拍出が増え、動脈圧が上昇することがあり得る。

ただし、ここで注意したいのは、血圧が上昇したことと、自己心拍出量が増加したことは同義ではないという点である。

血圧は心拍出量だけでなく、全身血管抵抗などにも左右される。また、ECMOフローを下げれば、ECMO自体による全身への送血量は減少する。そのため、血圧の変化だけから、後負荷の軽減によって自己心拍出量が改善したと断定することはできない。

何を確認すれば仮説を検証できるのか?

この仮説を検証するためには、フロー変更前後の循環動態を組み合わせて評価する必要がある。

  • 動脈圧波形と脈圧:自己心臓による駆出の変化を考える手がかりになる。
  • 心エコー:左室の大きさ・収縮、右室機能、大動脈弁の開放、心室中隔の動きなどを確認する。
  • 左室拡張や肺うっ血の所見:左室の負荷が軽減しているかを考える。
  • 臓器灌流:乳酸値、尿量、末梢循環などから、血圧の上昇が実際の循環改善につながっているかを評価する。
  • ECMOとIABPの設定:補助条件の変化を踏まえ、観察された反応を解釈する。

VA-ECMOのフロー調整は、単に血圧を上げるために行うものではない。全身への送血を保ちながら、自己心臓の機能、左室負荷、臓器灌流を評価し、離脱可能性を検討するために、担当チームの管理下で慎重に行う必要がある。

今回の所見から学んだのは、ECMOのフローが多いほど、必ずしも自己心臓にとって有利とは限らないということだった。

補助循環は、単に流量を確保すればよいのではなく、補助循環と自己心機能がどのような関係にあるのかを考える必要がある。

血圧の変化を単なる数値の変動として捉えるのではなく、その背景にある生理学的な変化を考えることが、集中治療における臨床推論の重要な一歩だと感じた。

9.NPとして、次に何を確認するか

今回の経験を通して、低血圧を認めたときに確認したい項目を整理した。

① いつから、何をきっかけに血圧が低下したのか

  • ECMOの設定変更との関係
  • CHDFの除水量や除水開始との関係
  • 不整脈の出現
  • 鎮静薬や循環作動薬の変更
  • 出血や体位変換などのイベント

時間経過を整理することで、原因を推測する手がかりになる。

② ECMOのフローはどうだったか

  • フローの変化
  • 脱血不良や回路のチャタリングの有無
  • 動脈圧波形や脈圧の変化
  • 補助循環の設定変更との関係

フローが安定している場合でも、それだけで循環不全を否定しない。

③ 輸液に対して、何が変化したのか

  • 血圧やMAP
  • 心拍出量や一回拍出量(評価可能な場合)
  • 末梢循環
  • 乳酸値の推移
  • 尿量
  • 心エコー所見やうっ血の兆候

「輸液を開始した」という事実だけでなく、その後の反応を評価することが大切である。

④ 現在も輸液を継続する必要があるのか

  • 投与開始時の目的は何だったか
  • その目的は現在も達成されていないのか
  • 継続による利益はあるか
  • うっ血や水分過剰のリスクはないか
  • CHDFの除水を含めた総水分バランスはどうか

開始時に必要だった治療が、その後も同じ速度で必要とは限らない。

もちろん、輸液の中止や内容の変更、速度変更は、患者の状態を踏まえて担当医・ECMO管理チームと検討する必要がある。


9.今回の学び

今回の症例を通して改めて考えたのは、低血圧への対応は「血圧を上げること」だけでは完結しないということだ。

血圧は重要な指標である。しかし、それは循環動態の一側面にすぎない。

血圧が低下したとき、前負荷不足なのか、心機能低下なのか、血管拡張なのか、あるいは複数の要因が重なっているのか。

そして、輸液をすることで本当に患者の循環が改善するのか。

その判断には、血圧だけでなく、ECMOのフロー、心エコー、脈圧、末梢循環、乳酸値、尿量、水分バランスなどを組み合わせた評価が必要になる。

「血圧が低いから輸液をする」から、「なぜ血圧が低いのか、輸液によって何を改善したいのか、実際に改善したのか」へ。

この問いを持つことが、治療の目的を理解し、患者にとって必要な介入を考える第一歩になるのではないだろうか。

看護師・NPとして、医師の指示を理解するだけでなく、その治療が何を目的とし、どのような反応を期待しているのかを考え、実施後の変化を評価する。

そして、必要に応じてチームに情報を共有し、次の判断につなげる。

こうした小さな臨床推論の積み重ねが、患者の状態をより深く理解することにつながると感じた。


参考文献・学習資料

  • Evans L, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Intensive Care Medicine. 2021.
  • Semler MW, et al. Balanced Crystalloids versus Saline in Critically Ill Adults. New England Journal of Medicine. 2018.
  • Finfer S, et al. Balanced Multielectrolyte Solution versus Saline in Critically Ill Adults. New England Journal of Medicine. 2022.

※本記事は特定の患者に対する治療指示ではなく、臨床推論を整理するための学習記事である。実際の輸液の適応・製剤・投与速度は、患者の病態、検査所見、施設の手順および担当チームの判断に基づいて決定される。

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