はじめに
今回取り上げるのは、がん疼痛、高齢者の身体機能低下、ポリファーマシー、リハビリテーション、そして急性腹症です。
臨床でこれらの患者を診るときには、共通する考え方があります。
それは、検査値や疾患名だけで患者を評価しないことです。
たとえば、がん患者の「痛み」は、NRSの数字だけを見てオピオイドを調整すればよいわけではありません。痛みの性質や原因、レスキュー薬の使用状況、副作用、睡眠や食事、ADLへの影響まで確認する必要があります。
高齢者の「転倒」も同じです。
単純に筋力が落ちたと考えるのではなく、長期入院による廃用、フレイル、サルコペニア、薬剤、低栄養、視力や平衡機能、自宅環境など、複数の要因を組み合わせて考える必要があります。
さらに、急性腹症では、画像だけを見て診断するのではなく、患者の全身状態、身体診察、血液検査、画像所見を組み合わせて、「今すぐ介入が必要な病態か」を判断することが重要です。
今回のテーマに共通するのは、知識 → 病態 → 所見 → 判断 → 介入 → その後の生活という流れです。
資格認定試験の問題を解くときにも、この流れで考えることができれば、単純な知識問題ではない症例にも対応しやすくなります。
そして、この考え方は試験が終わった後の実臨床でも、そのまま役立ちます。
1. がん疼痛をどう考えるか|「痛いから増量」だけでは終わらない
がん患者の疼痛コントロールが不十分な場合、まず考えたいのは「現在の鎮痛が患者の状態に対して十分なのか」ということです。
オピオイドを使用している患者で痛みが残っているからといって、ただちに別のオピオイドへ変更するわけではありません。
まず確認したいのは、
- 持続痛が残っているのか
- 突出痛があるのか
- レスキュー薬をどの程度使用しているのか
- レスキュー薬で十分に改善しているのか
- オピオイドによる眠気、悪心、便秘、せん妄などがないか
- 腎機能・肝機能に問題がないか
- 痛みの原因そのものが変化していないか
という点です。
WHOのがん疼痛ガイドラインでも、持続する疼痛に対する定時鎮痛と、突出痛に対するレスキュー薬という考え方が示されています。また、鎮痛効果と副作用のバランスが取れない場合には、オピオイドスイッチングを検討することがあります。
つまり、疼痛コントロール不良を見たときには、
「薬が足りないのか」
だけではなく、
「この痛みは何なのか」
まで戻って考えることが重要です。
持続痛と突出痛を分けて考える
がん疼痛では、ベースとなる持続痛と、その上に一時的に出現する突出痛を分けて考える必要があります。
定時薬でベースの痛みを抑えながら、突出痛には速効性のレスキュー薬を使用します。WHOも突出痛に対してレスキュー薬を使用することを推奨しています。
そのため、レスキュー薬の使用回数が増えている患者では、「レスキューをもっと使わせる」という発想だけでは不十分です。
レスキューを必要とする頻度や、その効果を確認し、ベースの鎮痛が十分なのかを再評価する必要があります。
ただし、レスキュー使用回数だけを機械的に基準にして定時オピオイドを増量するのも適切ではありません。
痛みの原因、強さ、持続時間、レスキューへの反応、副作用を含めて個別に判断します。
オピオイドスイッチングは「痛いから変更」ではない
オピオイドスイッチングは、使用しているオピオイドから別のオピオイドへ変更する方法です。
たとえば、
- 鎮痛効果が不十分で増量が難しい
- 眠気やせん妄などの副作用が問題になる
- 腎機能低下などにより代謝物の蓄積が懸念される
- 投与経路の変更が必要になる
といった状況で検討されます。
したがって、「疼痛コントロール不良=すぐに別のオピオイドへ変更」という考え方ではありません。
オピオイドの変更では、等鎮痛換算だけでなく、不完全交差耐性や患者の状態を考慮して慎重に用量を設定します。
オピオイドを開始したら、副作用も治療する
オピオイドでは、鎮痛効果だけでなく副作用の評価が欠かせません。
特に便秘は、オピオイド使用中に継続して問題となりやすいため、開始時から排便状況を確認し、必要に応じて下剤を併用します。
悪心・嘔吐、眠気、せん妄などについても、単に「副作用が出た」と捉えるのではなく、薬剤の種類や用量、腎機能、脱水、感染など他の要因を含めて評価します。
痛みの種類を見分ける
がん疼痛には、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、内臓痛など、異なる機序が関与します。
神経障害性疼痛が関与する場合には、抗うつ薬や抗てんかん薬などの鎮痛補助薬が選択肢となります。
ここで大切なのは、**「オピオイドを増やせばすべての痛みが解決するわけではない」**ということです。
たとえば、神経障害性疼痛に対してオピオイドだけを増量していけば、鎮痛効果より眠気などの副作用が目立つ可能性があります。
したがって、痛みが増えたときには、
痛みの種類 → 原因 → 治療可能な病態 → 薬物療法
という順番で考えると整理しやすくなります。
NRSの数字だけでは疼痛管理にならない
疼痛評価ではNRSなどの数値評価が便利ですが、数字だけでは患者の苦痛を十分に把握できません。
たとえば、
- 夜眠れているか
- 食事を摂れているか
- 起き上がれるか
- 歩けているか
- 会話やリハビリに参加できているか
- 痛みに対する不安が強くないか
- レスキュー薬を我慢していないか
まで確認することで、疼痛治療が患者の生活にどのような影響を与えているのかが見えてきます。
このテーマから何を学ぶか
がん疼痛の臨床推論で重要なのは、「オピオイドを増量する」という一つの知識ではありません。
痛みが残っている理由を考え、鎮痛効果と副作用、さらに患者の生活機能を見ながら治療を調整することです。
そして、痛みの増悪が病的骨折、脊髄圧迫、腸閉塞など新たな病態の出現を意味する場合もあります。
「痛いから薬を増やす」の前に、「なぜ今、痛みが増えたのか」を考える。
この視点が、がん疼痛を診るうえでの臨床推論につながります。
2. 高齢者の転倒をどう考えるか|「年齢のせい」で終わらせない
高齢女性が、手術後の長期入院をきっかけに外出しなくなり、転倒しやすくなったとします。
歩行速度は0.6 m/秒、握力は11 kgです。認知機能は大きく低下しておらず、GDSも低値です。
この患者を診るとき、「高齢だから筋力が落ちた」と考えてしまうと、その先の臨床推論が止まってしまいます。
重要なのは、何をきっかけに身体機能が低下したのかです。
この症例では、
手術
↓
肺炎を合併した長期入院
↓
活動量低下
↓
筋力・歩行能力低下
↓
外出減少
↓
さらに活動量低下
↓
転倒リスク上昇
という悪循環を考えることができます。
ここには廃用症候群だけでなく、フレイルやサルコペニアも関与している可能性があります。
廃用症候群とフレイルは同じではない
廃用症候群は、安静や活動量低下によって身体機能が低下していく状態です。
一方、フレイルは、加齢に伴う予備能の低下によって、ストレスに対する脆弱性が高まった状態と考えられます。
実際の高齢患者では、両者が重なっていることも少なくありません。
したがって、この症例を「廃用症候群かフレイルか」の二択で考えるより、
長期入院を契機とした廃用を背景に、身体的フレイルが進行している
と捉えたほうが臨床的には理解しやすいでしょう。
歩行速度と握力から身体機能を評価する
AWGS 2019では、サルコペニアの評価に握力、歩行速度などの身体機能評価を用います。
女性では握力18 kg未満、通常歩行速度1.0 m/秒未満が低値の目安となります。サルコペニアの診断には、これらに加えて筋肉量の低下も評価します。
この患者の握力11 kg、歩行速度0.6 m/秒は、明らかな身体機能低下を示しています。
ただし、握力と歩行速度だけでサルコペニアと確定するわけではありません。
筋肉量なども含めて評価する必要があります。
一方、臨床的には、この時点で「身体機能が低下している」という事実そのものが重要です。
転倒は一つの原因で説明しない
高齢者の転倒では、
- 筋力低下
- フレイル
- サルコペニア
- 起立性低血圧
- 視力低下
- 前庭機能障害
- 低栄養
- 認知機能低下
- 薬剤
- 住環境
など、複数の要因が重なります。
したがって、「歩行速度が遅いから転倒した」と結論づけるのではなく、身体・薬剤・環境・社会背景を含めて評価する必要があります。
CGAでは「疾患」から「生活」へ視点を広げる
高齢者総合機能評価(CGA)では、疾患だけではなく、
- ADL
- IADL
- 認知機能
- 精神心理状態
- 栄養
- 身体機能
- 転倒リスク
- 社会的背景
などを包括的に評価します。
今回の症例でIADLが保たれていることも、「まだできているから問題ない」と考えるのではなく、現在の生活機能を維持できているうちに介入する余地があると捉えることができます。
このテーマから何を学ぶか
高齢者の転倒を診るときに重要なのは、「転倒した高齢者」という一つの出来事を見ることではありません。
いつから、何をきっかけに身体機能が低下し、その結果として生活がどう変化したのか。
ここまで遡って考えることで、転倒予防だけでなく、再入院や要介護状態への進行を防ぐための介入が見えてきます。
3. ポリファーマシー|「薬が多い」ではなく「今の患者に必要か」
高齢者の転倒を考えるとき、もう一つ忘れてはいけないのが薬剤です。
高齢者では、加齢に伴う薬物動態・薬力学の変化に加え、複数疾患に対する治療が重なることで、薬物有害事象が起こりやすくなります。
ただし、ポリファーマシーは「薬を5種類以上飲んでいる」といった単純な薬剤数の問題ではありません。
厚生労働省の指針でも、ポリファーマシーは単に薬剤数が多いことではなく、薬物有害事象、服薬過誤、アドヒアランス低下などにつながっている状態として捉えられています。
「中止すべき薬」を探すより「見直すべき薬」を探す
たとえば、転倒を繰り返している高齢者がプレガバリンを服用していたとします。
プレガバリンには眠気、めまい、ふらつきなどの副作用があり、腎機能に応じた用量調整も必要です。
そのため、この患者ではプレガバリンが転倒に関与していないかを検討する価値があります。
ただし、「プレガバリン=高齢者では中止」ではありません。
神経障害性疼痛など明確な適応があり、効果が得られているのであれば、減量や継続も含めて個別に判断します。
同じことはスタチンやDPP-4阻害薬、アセトアミノフェンにも当てはまります。
薬剤の評価では、適応があるか → 効果があるか → 害がないか → 今後も必要かという順番で考えることが大切です。
高齢者の転倒では薬剤性を必ず考える
転倒患者を診たとき、「足腰が弱くなったから」だけで終わらせないことが重要です。
特に、
- 睡眠薬
- 抗不安薬
- 抗精神病薬
- 抗うつ薬
- オピオイド
- プレガバリン・ガバペンチン
- 過度な降圧につながる薬剤
- 利尿薬
などを含め、服薬内容を確認します。
厚生労働省も、高齢者のポリファーマシー対策では薬剤数だけでなく、薬物有害事象や服薬状況を含めた個別評価と、多職種間での情報共有を重視しています。2026年7月にも普及啓発資材が更新されています。
Deprescribingは「薬を減らすこと」ではない
Deprescribing(適切な減薬)は、単純に薬剤数を減らすことではありません。
患者の、
- 疾患
- 予後
- ADL
- 認知機能
- 副作用
- 治療目標
- 患者本人の希望
を踏まえて、現在の治療目標に合わなくなった薬剤を見直すことです。
つまり、「何を追加するか」だけでなく「何をやめるか」も治療の一部ということです。
このテーマから何を学ぶか
高齢者の薬物療法では、「薬が多い」という事実だけを問題にするのではなく、
この患者にとって、この薬は今も利益が害を上回っているか
という視点を持つことが重要です。
転倒、ふらつき、せん妄、食欲低下、便秘など、老年症候群が出現したときには、疾患だけでなく薬剤も原因候補に入れる。
それだけで臨床推論の幅が大きく変わります。
4. フレイルへの介入|「転ばないための安静」が悪循環を作る
身体機能が低下し、転倒しやすくなった高齢者に対して、「転ばないように外出を控えましょう」「できるだけ安静にしましょう」と指導することがあります。
しかし、これは場合によっては逆効果です。
活動量が減る
↓
筋力が低下する
↓
歩行能力が低下する
↓
さらに外出しなくなる
↓
さらに活動量が減る
という悪循環につながるためです。
この患者で優先したいのは、安全性を確保しながら身体活動を再び増やすことです。
その中心となるのがリハビリテーションです。
リハビリは「筋トレ」だけではない
高齢者のリハビリテーションでは、
- 下肢筋力訓練
- バランス訓練
- 歩行訓練
- 持久力訓練
- ADL訓練
などを組み合わせます。
さらに、栄養状態や薬剤、自宅環境、社会参加まで含めて考える必要があります。
つまり、リハビリテーションは「訓練室で運動すること」だけではありません。
その人が実際の生活の中で再び動けるようにすること
が目的です。
運動だけではなく栄養も見る
身体機能を回復させるには、運動と栄養を切り離して考えることはできません。
特に高齢者やフレイル患者では、十分なエネルギーと蛋白質の摂取を確保しながら、運動療法を組み合わせることが重要です。
「高齢だから食事を減らす」という考え方ではなく、体重減少や低栄養の有無、腎機能などを確認したうえで、必要な栄養を確保することが基本となります。
日光浴は目的の一つとして考える
屋外活動や日光への曝露には、概日リズムや身体活動、骨・筋機能などの観点から一定の意義があります。
ただし、この症例で最も優先されるのは日光浴そのものではありません。
「外に出る」という行動を、歩行や社会参加などの活動につなげることが重要です。
たとえば、散歩する → 外出する → 人と会う → 活動量が増える
という形で、日常生活そのものをリハビリテーションにしていく発想ができます。
高齢者医療では「検査値」より生活機能がゴールになることがある
高齢者の治療では、検査値を正常化することだけが最終目標ではありません。
たとえば、「血液検査が改善した」だけではなく、
「自分でトイレまで歩けるようになった」
「買い物に行けるようになった」
「自宅で生活を続けられるようになった」
というアウトカムも非常に重要です。
この視点が、老年医学とリハビリテーション医学を考えるうえで重要になります。
このテーマから何を学ぶか
高齢者の身体機能低下に対しては、
「転倒しないために動かさない」から「安全に動けるようにする」へ
発想を転換することが重要です。
リハビリテーション、栄養、薬剤調整、環境整備、社会参加を組み合わせながら、患者が実際の生活の中で活動できる状態を目指します。
5. 急性腹症|画像だけで診断しない
まず「何の病気か」より「緊急度」を考えます。
急性腹症で最初に考えたいのは、この患者は今、循環・呼吸・意識を脅かされていないかということです。
血圧、脈拍、呼吸数、SpO₂、体温、意識状態、尿量などを確認し、ショックや敗血症を疑う所見があれば、診断確定を待たずに初期蘇生を開始します。
Tokyo Guidelinesでも、急性胆道感染症が疑われる患者では、まずバイタルサインから緊急度を評価し、必要なら診断確定を待たずに初期治療を開始する考え方が示されています。
急性胆管炎なら「感染」と「閉塞」を考える
胆管炎を考える場合には、
感染
+
胆汁うっ滞・胆道閉塞
という二つの側面から考えます。
たとえば総胆管結石によって胆汁の流れが妨げられると、
胆道閉塞
↓
胆汁うっ滞
↓
細菌感染
↓
急性胆管炎
という病態が成立します。
したがって、抗菌薬だけでなく、必要に応じて胆道ドレナージによって感染源となっている閉塞を解除することが重要になります。
ただし、すべての軽症胆管炎で直ちにドレナージが必要というわけではありません。重症度や初期治療への反応を踏まえて判断します。
急性胆嚢炎との鑑別
右上腹部痛を認める患者では、急性胆嚢炎も重要な鑑別です。
急性胆嚢炎では、
- 右上腹部痛・圧痛
- Murphy徴候
- 発熱などの炎症所見
- 胆嚢壁肥厚
- 胆嚢周囲液体貯留
- 胆嚢結石など
を組み合わせて考えます。
一方、急性胆管炎では、胆管拡張や胆汁うっ滞を示す所見が重要になります。Tokyo Guidelinesでは、胆嚢炎と胆管炎で診断に用いる所見が整理されています。
両者が同時に存在することもあるため、「胆嚢か胆管か」の二択だけで考える必要はありません。
Charcot三徴がないから胆管炎ではない、とは限らない
急性胆管炎では、
- 発熱
- 右季肋部痛
- 黄疸
のCharcot三徴が有名です。
しかし、すべての患者で三徴が揃うわけではありません。
そのため、
「発熱がないから胆管炎ではない」
「黄疸がないから胆管炎ではない」
と単純化するのではなく、血液検査や画像所見を含めて総合的に判断します。
重症例では、意識障害や循環不全などの臓器障害を伴うことがあり、迅速な全身管理が必要です。
腹膜刺激症状があるときは、診断の軸を変える
今回の症例で特に注目したいのが「筋性防御・反跳痛」です。
これらは腹膜刺激を示唆する所見であり、消化管穿孔や重症腹腔内炎症などを考えるきっかけになります。
したがって、「右上腹部痛+胆道系酵素上昇」だけを見て胆管炎に寄せるのではなく、腹膜刺激症状があるのはなぜかと一度立ち止まる必要があります。
もしCTで腹腔内遊離ガスが認められているのであれば、消化管穿孔を優先して考えるべき状況になります。
逆に、CTで胆管拡張や総胆管結石があり、さらに発熱・炎症反応・胆汁うっ滞を伴っているのであれば、急性胆管炎の診断に近づきます。
つまり、画像の一部分だけを見るのではなく、画像が患者の臨床所見と矛盾なくつながるかを確認することが重要です。
このテーマから何を学ぶか
急性腹症の臨床推論では、身体診察 → 重症度 → 血液検査 → 画像 → 病態 → 必要な介入という流れで考えると整理しやすくなります。
「CTで○○が見えたから○○だ」と考えるのではなく、
この患者の所見をすべて説明できる病態は何か
と考えることが、画像診断を臨床推論につなげるポイントです。
まとめ
今回の5テーマは、がん疼痛、高齢者の身体機能低下、ポリファーマシー、リハビリテーション、急性腹症と、それぞれ異なる領域を扱っています。
しかし、臨床推論の流れで見ると共通点があります。
がん疼痛では、痛みの数字だけを見るのではなく、痛みの原因、鎮痛薬の効果、副作用、生活への影響まで評価します。
高齢者では、転倒や歩行速度低下を「年齢のせい」と片付けず、廃用、フレイル、サルコペニア、薬剤、栄養、環境などの背景を探ります。
ポリファーマシーでは、単純に薬剤数を減らすのではなく、「現在の患者にとって利益が害を上回っているか」という視点で処方を見直します。
リハビリテーションでは、「転ばないために動かさない」のではなく、安全に活動できる状態をつくることを目指します。
急性腹症では、画像だけで診断を決めず、身体所見、炎症反応、臓器障害、画像所見を組み合わせて緊急度と治療方針を判断します。
つまり、今回の5テーマで共通しているのは、「何の病気か」だけではなく、「この患者に今、何が起きていて、何をすべきなのか」を考えることです。
これは、診療看護師の臨床推論を考えるうえでも重要な視点です。
総括|「知識」から「臨床推論」へ
診療看護師資格認定試験を振り返ると、救急、循環器、呼吸器、感染症、小児、老年医学、緩和医療、医療安全、コミュニケーションなど、さまざまな領域の知識が求められました。
しかし、個々の知識を覚えるだけでは、実際の臨床で複雑な患者に対応することはできません。
臨床では、一つの患者に複数の問題が同時に存在します。
高齢者が肺炎で入院していれば、感染症だけでなく、脱水、せん妄、腎機能、薬剤、栄養、ADL、退院後の生活まで考える必要があります。
がん患者の疼痛を診る場合も、痛みだけではなく、病勢、治療目標、ADL、睡眠、食事、家族背景まで関係してきます。
急性腹症では、疾患名を当てることよりも、患者がショックに陥っていないか、緊急手術や内視鏡治療が必要ではないかを判断することが優先されます。
このように考えると、臨床推論は単なる「診断当て」ではありません。
知識を使って患者の状態を解釈し、次に必要な行動を決めるプロセスです。
「この問題の正解は何だったか」
だけで終わらせるのではなく、
「なぜその判断になるのか」
「他の選択肢はなぜ違うのか」
「実際の患者なら次に何を確認するか」
まで考えてみてください。
知識を点で覚えるのではなく、
知識 → 病態 → 所見 → 臨床判断 → 介入 → アウトカム
という一本の線につなげていく。
その積み重ねが、試験問題に対応する力だけではなく、実際の臨床で患者を診る力につながっていきます。
資格認定試験では、限られた情報の中から最も適切な選択肢を選ぶ必要があります。
一方、実臨床では、最初から必要な情報がすべて揃っているわけではありません。
患者の話を聞き、身体診察を行い、検査を追加し、経過を追いながら情報を集めていきます。
だからこそ、試験で身につけた知識を「正解を選ぶための知識」で終わらせず、患者から得られる情報を解釈し、次の一手を考えるための知識へ変えていくことが大切です。
ぜひそれぞれのテーマを実際の臨床場面に置き換えて考えてみてください。
「この患者なら、まず何を見るか」
「この所見があったら、何を疑うか」
「次にどの検査を追加するか」
「今すぐ介入が必要なのか」
「治療した後、患者の生活はどう変わるのか」
こうした問いを繰り返すことで、知識は単なる暗記から臨床推論へと変わっていきます。
試験問題を解く力の先にあるのは、患者を総合的に診る力です。
※本シリーズについて
本シリーズでは、診療看護師資格認定試験を実際に経験した中で感じたことをもとに、そこで求められていた知識や臨床的な視点を、日々の学習や臨床にも活かせる形で整理しています。
「このような場面では、何を考える必要があるのか」
「診療看護師として、どこまで病態を理解しておくべきなのか」
という視点を中心にまとめています。
これから診療看護師を目指す方だけでなく、臨床推論をもう一度整理したい方や、日々の診療・看護の中で「なぜ?」を深掘りしたい方にも参考になればと思います。



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