- はじめに
- そもそも「循環動態」とは?
- DO₂・VO₂・SvO₂を一つの流れで考える
- DO₂は「CO・Hb・SaO₂」で考える
- VO₂は「組織がどれだけ酸素を使ったか」
- DO₂が低下すると、身体はどうする?
- SvO₂が低いとき、何が起こっている?
- SvO₂が低かったら、まず何を見る?
- FloTracは何を見ている?
- SVVは「高ければ輸液」ではない
- SVVが使いにくい状況を知っておく
- CO・CI・SV・SVV・SVRを整理する
- 正常値を覚えるだけでは、循環動態はわからない
- 循環動態モニターを見る順番を決めてみる
- 「血圧が低い」だけでは何もわからない
- 循環動態は「数字当てゲーム」ではない
- 循環動態で迷ったときの3つの質問
- 「数値 → 条件 → 波形 → 患者」の順番を意識する
- まとめ
- 勉強会用資料
はじめに
「血圧が低いから、とりあえず輸液」
「SvO₂が低いから、循環が悪い」
「CIが低いから、心機能が悪い」
ICUや救急、重症患者の看護に携わっていると、このような場面に出会うことがあります。
しかし、循環動態を考えるうえで大切なのは、単にモニターの数値を読めることではありません。
「なぜこの数値になっているのか」
「この患者では、次に何を確認すればよいのか」
まで考えることが重要です。
循環動態は、CO、CI、SV、SVV、SVR、ScvO₂、SvO₂など、さまざまな指標が登場するため、最初は難しく感じるかもしれません。さらにDO₂やVO₂まで出てくると、「覚えることが多すぎる」と感じる方もいるでしょう。
しかし、これらを一つひとつ暗記する必要はありません。
循環動態は、
酸素を送る → 組織が酸素を使う → 使われなかった酸素が戻ってくる
という一つの流れで考えると、かなり整理しやすくなります。
この記事では、ICU・救急・重症患者の看護で活用できるように、DO₂・VO₂・SvO₂を起点に、FloTracで得られる数値まで整理していきます。
そもそも「循環動態」とは?
循環動態を簡単に表現すると、
「血液がどれくらい流れ、酸素がどれくらい運ばれ、組織がそれをどれくらい使えているか」
を考えることです。
重症患者では、単に血圧を見るだけでは十分ではありません。
たとえば、
- 心臓から十分な血液が送り出されているか
- 酸素を運ぶヘモグロビンは十分か
- 酸素化は保たれているか
- 組織の酸素需要が増えていないか
- 血管が拡張しすぎていないか
- 輸液によって心拍出量が増える状態なのか
などを組み合わせて考えます。
そのための基本となるのが、DO₂・VO₂・SvO₂です。
DO₂・VO₂・SvO₂を一つの流れで考える
まず、この3つを整理しましょう。
DO₂:酸素運搬量
組織へどれくらい酸素を運んでいるか
VO₂:酸素消費量
組織がどれくらい酸素を使っているか
SvO₂:混合静脈血酸素飽和度
組織で酸素を使ったあと、どれくらい酸素が残って戻ってきたか
イメージとしては、
DO₂=酸素を送る
VO₂=酸素を使う
SvO₂=酸素を使った結果として残ったものを見る
と考えるとわかりやすくなります。
ここで重要なのは、SvO₂だけを見て判断しないことです。
SvO₂は、酸素を「送る側」と「使う側」の両方の影響を受けるためです。
DO₂は「CO・Hb・SaO₂」で考える
DO₂(酸素運搬量)は、
DO₂=CO×CaO₂
で表されます。
さらにCaO₂(動脈血酸素含有量)は、
CaO₂=1.34×Hb×SaO₂+0.0031×PaO₂
です。
式を丸暗記するよりも、まずは「酸素を運ぶためには、血液を送り出す量、酸素を運ぶヘモグロビン、そして酸素化が重要」と考えると理解しやすくなります。
| 要素 | 何を意味する? |
|---|---|
| CO | 血液をどれくらい送り出すか |
| Hb | 酸素をどれくらい運べるか |
| SaO₂ | Hbにどれくらい酸素が乗っているか |
SpO₂が正常でも、酸素運搬が十分とは限らない
ここは臨床で非常に重要なポイントです。
例えば、
患者A SpO₂ 98%、Hb 12 g/dL、CO 5.0 L/min
患者B SpO₂ 98%、Hb 6 g/dL、CO 2.5 L/min
どちらもSpO₂は98%です。しかし、酸素を運ぶ能力は同じではありません。
SpO₂は「ヘモグロビンにどれくらい酸素が乗っているか」を示す指標であり、酸素を運ぶヘモグロビンの量や、血液を送り出す量までは示していません。
したがって、
「SpO₂は正常だから大丈夫」
ではなく、
「Hbはどうか? COはどうか?」
と考える必要があります。
VO₂は「組織がどれだけ酸素を使ったか」
次にVO₂です。
VO₂=CO×(CaO₂−CvO₂)×10
式だけを見ると難しく感じますが、考え方はシンプルです。
動脈血によって酸素が組織へ運ばれ、そこで組織が酸素を使います。そして、酸素が減った血液が静脈側へ戻ってきます。
つまり、動脈血の酸素量と静脈血の酸素量の差が、組織で使われた酸素を反映すると考えることができます。
では、どのようなときにVO₂は増えるのでしょうか。
例えば、
- 発熱
- 震え
- 運動
- 強い炎症
- 代謝亢進
などです。
このような状態では、組織が必要とする酸素量が増えます。
つまり循環を見るときには、
「酸素を十分に送れているか」だけではなく、「そもそも酸素需要が増えていないか」
も考える必要があります。
DO₂が低下すると、身体はどうする?
身体には、酸素供給が低下したときに、できるだけ酸素を確保しようとする仕組みがあります。
DO₂が低下すると、組織では酸素の抽出が増加します。
それでも酸素供給が需要に追いつかなくなると、好気的代謝から嫌気的代謝へ傾き、乳酸が上昇することがあります。
ただし、ここで注意したいのが、
「乳酸が高い=低灌流」ではない
ということです。
乳酸は、低灌流だけでなく、酸素利用障害や乳酸クリアランスの低下など、さまざまな要因で上昇する可能性があります。
そのため、乳酸を単独で判断するのではなく、血圧、CO・CI、SvO₂・ScvO₂、尿量、意識状態、末梢循環などと組み合わせて評価します。
SvO₂が低いとき、何が起こっている?
SvO₂は、「組織で酸素を使ったあと、どれくらい酸素が残って戻ってきたか」を反映する指標です。
したがって、SvO₂が低下しているときには、
「酸素を送る量が減っているのか?」
それとも、
「酸素を使う量が増えているのか?」
を考えます。
DO₂が低下する場合
- CO低下
- Hb低下
- SaO₂低下
などがあります。
VO₂が増加する場合
- 発熱
- 震え
- 運動
- 炎症
- 代謝亢進
などがあります。
つまり、
SvO₂低下は「原因」ではなく、「酸素需給のどこかに問題があるかもしれない」というサイン
と考えることが大切です。
「SvO₂が低いから輸液」というように、一つの数字から治療を決めるのではなく、原因を分解して考えます。
SvO₂が低かったら、まず何を見る?
SvO₂が低下している患者を受け持ったときには、次のように考えてみます。
① COは?
心臓から十分な血液が送り出されているか。
② Hbは?
酸素を運ぶ能力は保たれているか。
③ SaO₂は?
酸素化は保たれているか。
④ VO₂は?
発熱や震えなどによって酸素需要が増えていないか。
このように分解して考えると、
「SvO₂が低い=とりあえず輸液」
という短絡的な判断を避けることができます。
FloTracは何を見ている?
ここから、ICUなどで使用される循環動態モニターについて考えてみます。
FloTracは、動脈圧波形を利用して心拍出量などを連続的に推定する仕組みです。
動脈圧波形から一回拍出量(SV)を推定し、心拍数(HR)と組み合わせて心拍出量(CO)を算出します。
ここで大切なのは、モニターがCOを直接「見ている」わけではないということです。
動脈圧波形という情報をもとに演算して、COなどを推定しています。
そのため、数値を見るときには、
「この数字は何をもとに算出されているのか?」
という視点を持つことが重要です。
そしてもう一つ大切なのが、
「数字を見る前に波形を見る」
ということです。
波形そのものが不良であれば、そこから得られる数値の信頼性にも影響します。
SVVは「高ければ輸液」ではない
FloTracを使用していると、SVVという数値を目にすることがあります。
SVVは、Stroke Volume Variation(一回拍出量変化量)のことで、呼吸に伴う一回拍出量の変動を表します。
人工呼吸器による呼吸サイクルによってSVが変動することを利用し、輸液反応性を考えるための指標として用いられます。
ただし、「SVVが高い=輸液」と単純に判断してはいけません。
SVVを解釈するためには、一定の条件があります。
例えば、
- 自発呼吸がない
- 規則的な調節換気
- 不整脈がない
- 波形品質が良好
などです。
そのため、
SVVの数値を見る → 成立条件を確認する → そのうえで輸液反応性を考える
という順番が重要です。
SVVが使いにくい状況を知っておく
例えば、
「SVV 15%だから輸液を検討しよう」
と思った患者に、自発呼吸がある、不整脈があるという状況があればどうでしょうか。
この場合、SVVの成立条件から外れているため、その数値だけで輸液反応性を判断することはできません。
ここで覚えておきたいのは、
「数値を覚える」より、「その数値を使える条件を知る」
ということです。
これはSVVに限らず、循環動態モニターを扱ううえで重要な考え方です。
CO・CI・SV・SVV・SVRを整理する
モニター画面にはさまざまな数字が表示されるため、最初は混乱しやすいと思います。
まずは、それぞれが何を意味しているのかを整理してみましょう。
| 項目 | 何を見ている? |
|---|---|
| CO | 1分間に心臓から送り出される血液量 |
| CI | COを体表面積で補正したもの |
| SV | 1回の拍動で送り出される血液量 |
| SVV | 呼吸に伴うSVの変動 |
| SVR | 血管抵抗 |
| ScvO₂ | 中心静脈血酸素飽和度 |
さらに、それぞれの値が「どこから出てきた数字なのか」を知っておくと、モニターが理解しやすくなります。
今回の教材では、CO・SVはFloTracの圧波形、CIはCOをBSAで補正した値、SVRはMAP・CVP・COから算出される値として整理しています。
正常値を覚えるだけでは、循環動態はわからない
循環動態を勉強すると、「COは4~8」「CIは2.5~4」「SVは60~100」「SVRは800~1200」など、基準値を覚えたくなります。
もちろん基準値を知ることは大切です。
しかし、実際の臨床では、
「正常値に入っているか」だけでは不十分です。
むしろ重要なのは、
「どの値が、どの方向へ、どのくらい変化したのか」
です。
例えば、COが4.5 → 3.5 L/minへ低下したとします。
3.5という数字だけを見るのではなく、
「なぜCOが低下したのだろう?」
と考えます。
- SVが低下した?
- HRが変化した?
- 前負荷が低下した?
- 収縮力が低下した?
- 後負荷が上昇した?
- 不整脈が出た?
- 出血した?
など、原因を考えていきます。
このように、「数字 → 原因 → 病態」とつなげていくことが、循環動態を理解するポイントです。
循環動態モニターを見る順番を決めてみる
たくさんの数字が表示されていると、どこから見ればよいのかわからなくなることがあります。
そこで、毎回同じ順番で確認してみます。
① MAP
灌流圧は保たれているか?
② CO・CI
血液は十分に流れているか?
③ SV
1回拍出量はどうか?
④ SVV
輸液反応性を評価できる条件か?
⑤ SVR
血管は拡張しているのか、収縮しているのか?
⑥ 最後に患者を見る
意識、尿量、皮膚、末梢循環、呼吸状態などはどうか?
このように「見る順番」を決めておくと、一つの異常値に引っ張られにくくなります。
「血圧が低い」だけでは何もわからない
例えば、MAP 60 mmHgだったとします。
ここで、「血圧が低いから輸液」「血圧が低いから昇圧薬」とすぐに考えるのではなく、他の値を確認します。
まず、CO・CIはどうか?
次に、SVVは評価できる条件か?
そして、SVRはどうか?
と考えていきます。
例えば、
MAP↓・CI↓・SVV↑・SVR↑
という組み合わせなら、循環血液量不足を考える方向になります。
一方、
MAP↓・CI↑・SVV↓・SVR↓
なら、血管拡張による分布異常を考える方向になります。
このように、
同じ「血圧低下」でも、原因は一つではありません。
だからこそ、循環動態は一つの数字ではなく、複数の数字を組み合わせて考えることが大切です。
循環動態は「数字当てゲーム」ではない
ここまで読むと、「結局、覚えることが多いな」と思うかもしれません。
でも、循環動態で本当に身につけたいのは、数字を暗記することではありません。
例えば、CIが低いという情報を得たとします。
そこで終わるのではなく、
「COが低いのか?」
「SVが低いのか?」
「前負荷・収縮力・後負荷・リズムのどこに問題があるのか?」
「SVVは使える状況なのか?」
「実際の患者さんはどうなのか?」
と考えていきます。
つまり、数字から病態を考えることが循環動態を学ぶ目的です。
モニターは答えを教えてくれるものではなく、患者の状態を考えるための材料として使うものです。
循環動態で迷ったときの3つの質問
最後に、循環動態を考えるときの軸として、3つの質問を覚えておきましょう。
① DO₂は足りている?
CO・Hb・SaO₂を確認します。
② VO₂は増えていない?
発熱、震え、運動、炎症など、酸素需要を増やしている要因を確認します。
③ 酸素需給のバランスは保たれている?
SvO₂や乳酸だけでなく、意識、尿量、皮膚、末梢循環、呼吸状態などを合わせて、時間経過とともに評価します。
「数値 → 条件 → 波形 → 患者」の順番を意識する
循環動態モニターを見るときに、もう一つ覚えておきたい考え方があります。
それが、数値 → 成立条件 → 波形 → 臨床所見 → トレンドです。
例えばSVVが高かったとしても、「この患者はSVVを評価できる条件なのか?」と確認します。
COが変化していたら、「動脈圧波形は適切なのか?」と確認します。
そして最後に、「実際の患者さんはどうなのか?」を確認します。
循環動態モニターは、数字だけを見るのではなく、その数字が成立する条件と患者の状態を合わせて解釈することが大切です。
まとめ
循環動態は、CO、CI、SVV、SVRなどの数字を一つずつ暗記するだけでは、なかなか臨床につながりません。
まずは、
DO₂=酸素を送る
VO₂=酸素を使う
SvO₂=使った結果として残った酸素を見る
という大きな流れを理解してみてください。
そして循環動態モニターを見るときには、
MAP → CO・CI → SV → SVV → SVR → 患者
という順番で確認します。
何か異常値があったときには、「この数字はなぜ変化したのだろう?」と考えてみる。
それだけでも、循環動態の見え方は少しずつ変わってきます。
循環動態は、数字を覚えるためのものではありません。
患者さんの状態を、数字を通して考えるためのものです。
明日からモニターを見るときに、まず一つだけでも「この数字は何を意味しているのだろう?」と考えてみてください。
勉強会用資料
ここまで読んで、「循環動態の勉強会をやってみたい」と思った方もいるかもしれません。
ただ、実際に勉強会を開催するとなると、DO₂・VO₂・SvO₂の説明、FloTracの原理、SVVの成立条件、症例や数値の組み合わせ、参加者への問いかけなど、一から準備するには意外と時間がかかります。
そこで、今回の記事の内容をもとに、「循環動態をまなぶ」勉強会用のPowerPointも作成しました。
17枚のスライドで、DO₂・VO₂・SvO₂からFloTrac、SVV、CO・CI・SVR、そして数値の組み合わせから病態を考えるところまで、一つの流れで学べるようにしています。
また、各スライドには講師用のカンペも付けています。
「このスライドで何を話すか」「どこを強調するか」「参加者に何を問いかけるか」「次のスライドへどうつなぐか」まで整理しているので、自分で資料を一から作る時間はないけれど、勉強会を開催したいという方には使いやすい内容になっています。
個人で勉強するために使っていただいても構いませんし、病棟やICUなどで勉強会を開催するときに活用していただいても構いません。
必要な方は、よければこちらもご覧ください。
※本教材は教育目的で作成しています。実際の患者への治療・看護判断は、患者の状態、最新の添付文書、施設のプロトコル・手順等を確認したうえで行ってください。機器の仕様や使用方法についても、各施設の運用および最新の製品情報をご確認ください。


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